ひなたぼっこ




ぽかぽかと本当に音がしそうな優しい春の陽射しの中でマーロ=フォンテは本を広げていた。

本人はそう言われるとひどく怒るが、木陰からの木漏れ日にうつされる真剣な表情は思わず妖精の眷属かと疑ってしまうほど綺麗だ。

しかしそれに見とれる人間は今は周りにはいなかった・・・否、正確には1人いるのだが。

その1人とはマーロの背中に寄りかかって膝にのせた小さなかえると遊んでいる薄桃色の髪の少女、アリアだ。

今日は2人とも暇だったので、マーロが誘いに来て森の湖の畔まで来たのだがマーロはさっきから出がけにスタットに借りたという魔法書に夢中になってしまっている。

失礼な!と怒っても許される状況だがそんなふうに思わないのがアリアのいいところで、マーロの邪魔をしないように・・・・でもほんのちょっと自分がいることも主張したくて彼に寄りかかったまま大人しくしているのだ。

「アリア」

「ん?なに?ケロちゃん。」

「マーロ、夢中だケロ」

「ふふ、そうだね。」

肩越しにほんのちょっと振り返ってマーロの横顔を満足そうに見てアリアは微笑んだ。

「邪魔しないようにしようね。」

「でもアリア寂しくないケロ?」

「どうして?」

アリアの肩に乗って心配そうに聞いてくるケロちゃんにアリアは首を傾げた。

「だってアリア、マーロとおしゃべりしたがってたケロ?だから今日も喜んでたケロに・・・・」

その言葉に頬を赤くしたアリアは慌ててケロちゃんの口を塞いだ。

「ケロちゃん!それは内緒!」

「むぐむぐ〜〜(だってケロ〜)」

口を塞がれたままでも反論してくる(なんでわかっちゃうんだ?)ケロちゃんをとりあえず無視して背中のマーロをちらっと盗み見るが、マーロは相変わらず本に目を落としたままだ。

ほっとアリアは息をついてからケロちゃんに顔を近づけて言った。

「いいの、おしゃべりできなくても。
私・・・・一生懸命なマーロも大好きだから。」

本当に幸せそうに言われてしまって、ケロちゃんは溜め息をついた。

(お邪魔虫かもしれないケロ・・・)

やっぱり誘われた時に断るべきだったケロか、などと思っているケロちゃんの心の中にはちっとも気付かないアリアはふわあっと小さく欠伸をした。

(マーロの背中ってあったかい・・・・)










―― しばらくしてにわかに背中に重みがかかってきた事に気付いてマーロは本から顔を上げた。

その頬が心なしか赤い。

肩越しに振り返れば背中に寄りかかったアリアが穏やかな寝息をたてていた。

アリアの膝の上でケロちゃんまで眠ってしまっている。

それを確かめてからマーロは緩みそうになる口元を押さえるように手を被せた。

「・・・・バカ、聞こえてるよ・・・・」

小さな呟きはその言葉が持つ意味とは正反対の照れくささを隠した優しい響きを持っていた。

そう、マーロには聞こえていたのだ、さっきの会話が。

アリアはケロちゃんとの会話を聞かれていないと思っていたみたいだが、考えてみれば背中ごしにされた会話が聞こえない奴の方がおかしい。

―― 『私・・・・一生懸命なマーロも大好きだから。』 ――

さっきのアリアの言葉が一瞬耳を掠めてマーロは鼓動を早める。

こんなに甘い言葉が他にあるだろうか?

思わず抱きしめてしまわなかったのは奇跡だと思う。

マーロは苦笑して自分の肩に寄りかかっている薄桃色の髪を梳いた。

柔らかい感触に彼女の香りがして再び頬に血が上る。

マーロはアリアの頭のてっぺんにそっとキスをした。

そして膝の上にあった本をぱたんっと閉じると目を瞑って囁いた。

「・・・・俺も、どんなあんたも・・・・大好きだ・・・・」




―― 暖かい陽射しのさす春のある日の小さなお話。











                              〜 END 〜






― あとがき ―
かえるの絵本創作第2弾。
相変わらずのほのぼのノリな創作になってしまいました(^^;)
一応めでたく赤竜シナリオロスト編をクリアした記念に書いてみたんですが甘くないなあ。
ロスト編のラストはなかなか可愛かったし甘かったと思うのですが。